私たちの体の細胞の中には、「ミトコンドリア」と呼ばれる小さな器官が存在しています。ミトコンドリアは、細胞が活動するためのエネルギー(ATP)を生み出す場所です。しかし、実はこのミトコンドリアはもともと私たちの細胞の一部ではなかったと考えられています。というのも、ミトコンドリアは約18億~20億年前に、ある原始的な細胞の中に細菌が入り込み、そのまま共生するようになったものだという仮説が提唱されているからです。この仮説は「細胞内共生説」と呼ばれ、現在では生命進化を理解するうえで最も重要な理論の一つとされています[116-118]。
当時の地球では、酸素を利用して大量のエネルギーを生み出すことができる細菌(αプロテオバクテリア)が存在していました。この細菌が別の細胞の内部に入り込み、ミトコンドリアとなったと考えられています。[116-118]。そして、ミトコンドリアを獲得した細胞は、それまでとは比較にならないほど大量のエネルギーを利用できるようになり、その結果、複雑な構造を持つ細胞や多細胞生物が進化する道が開かれたと考えられています[119]。
ミトコンドリアの「細胞内共生説」を唱えたリン・マーギュリス女史は、ミトコンドリアなどの共生による進化を「共生進化(symbiogenesis)」と名付け、「ネオ・ダーウィニズム」で描かれる進化の構図(遺伝子突然変異+自然選択 → 進化)を徹底批判しました[120]。また進化生物学者ニック・レーンも、ミトコンドリアの獲得・共生こそが、生命の複雑化を可能にした決定的な要因であると指摘しています[118,119]。彼らによれば、生命の進化とは、ネオ・ダーウィニズムが主張するような「遺伝子の突然変異」が原動力となったわけではなく、細胞がエネルギーをどのように獲得し利用するかという仕組みを発達させるためのプロセスだったということです。そしてその中心にあるのが、まさに「ミトコンドリア」だということなのです。
参考文献▽
[116] L. Sagan, On the origin of mitosing cells, J Theor Biol 14 (1967) 255–274. 10.1016/0022-5193(67)90079-3.
[117] A.J. Roger, S.A. Muñoz-Gómez, R. Kamikawa, The Origin and Diversification of Mitochondria, Current Biology 27 (2017) R1177–R1192. https://doi.org/10.1016/j.cub.2017.09.015.
[118] M.W. Gray, Lynn Margulis and the endosymbiont hypothesis: 50 years later, Mol Biol Cell 28 (2017) 1285–1287. 10.1091/mbc.E16-07-0509.
[119] N. Lane, W. Martin, The energetics of genome complexity, Nature 467 (2010) 929–934. 10.1038/nature09486.

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